Treasure いただきもの 小説
「マオ!なぁなぁ、月には兎がいるんだぜ!知ってたか?」
ばればれな嘘をついた俺に、親友…マオ=マクドールはキラキラした瞳で問い返してきたんだ。
「本当に!?テッドって物知りだね」
ま、まさか本気にしたって事はねぇよな?
「僕知らなかったなぁ…まさかお月様に兎さんがいるなんて…」
もしかして信じて…
「みんなにも教えてこよっと♪」
な!そんな事したら俺の晩飯が!!!!
「い、いや、教えなくても…」
言いかけた俺の腕を取ってマオは走り出す。
「ちょ、待てってマオ!」
「あ、クレオさ~ん!」
ば、馬鹿!クレオさんに聞いたら俺が刺身にされちまう!!!!
焦ってマオの口を塞ごうとしたが…
「よお、テッドに坊ちゃん。何してんだ?」
パーンさんが俺の肩にのしかかってきて身動きが取れなくなる。
「いや、その、何でもないんだ!」
慌てて首を振る俺にマオは…
「あのね!お月様には兎さんがいるんだってvテッドが教えてくれたんだ♪」
ヤバイ!クレオさんから鉄拳が飛んでくる!
思わず目を閉じた俺の耳に聞こえてきたのは信じられない言葉だった…
「そうなのですか!?兎さんが住んでいるのですか…行ってみたいですね」
うっとりと目を閉じてクレオさんが呟く。
クレオさんて兎好きなのか?何はともあれ殴られなかった事にホッとして胸を撫で下ろす。
「なぁ、兎ってうまいんだよな?月にいきゃあ兎食べ放題か?」
さらっというパーンさんにクレオさんから冷たい殺気が漂ってくる。
やばい、逃げねぇと!!!!俺は咄嗟にマオの腕をとって窓際へ移動した。
「パァ~ン~!貴様あんなに可愛い兎さんを食べるつもりなのか!?私が叩き切ってやる!」
鬼の形相で剣を抜き、パーンさん目掛けて走り出すクレオさん。
「わわわ、クレオ!ちょっと待て!ただの冗談じゃないか!?」
「問答無用!」
………
「何であの二人はいつもああなんだろうね?」
避けなきゃ俺達も巻き添えだったっつーのに…まあ、それがマオの良い所か。
「喧嘩するのは仲が良い証拠って言うだろ?」
「そうだね。あ!グレミオ~」
笑って頷いたマオは大量の洗濯物を抱えたグレミオさんに気付き、走り寄った。
「あのね、お月様には兎さんが住んでるんだって!」
にこにこ言うマオにグレミオさんもにこにこして
「そうなんですか。ぜひ兎さん達にお会いしたいですね」
あんたもかグレミオさん…脱力しているとテオ様の声が…
「あ、テオ様。お帰りなさい」
にっこりグレミオさん
「父さんおかえり!」
ぎゅっと抱き着くマオ
「テオ様お帰りなさい」
笑って迎える俺
「ただいま」
笑って答えるテオ様に
「テオ様、ご存知ですか?」
『お月様に兎さんが住んでいるって!』
グレミオさんとマオ、二人口を揃えて言う
やばい!俺が青くなって身構えていると…
「ふむ、もしかしたら住んでいるかもしれないな。ほら、月を見てみなさい」
テオ様の指差す先にはまあるいお月様。
そこにはまるで…兎がいるようで。
「やっぱり!ねぇ、父さん。いつか、兎さんにあえるかな?」
無邪気に笑うマオと俺の頭にぽんと手を置いて、くしゃっと撫でながらテオ様は笑って言った
「いつか、逢いにいけるだろうな。さぁ、御飯にしようか。」
その手は暖かくて涙がでそうで…ここは、あまりにもほのぼのしていて時々苦しくなるけれど、
こんなに幸せな事ってなかなかない。
俺、ここにいられて良かった。
空にはまあるいお月様。家には優しい家族がいて…そんな幸せを噛み締めて俺はふっと微笑んだ。
fin
~後日~
グレッグミンスターでは
「お月様には兎さんがいる」
と噂が広がっていた…
まさか、こんな事になるとは思ってもみなかったぜ...
■和久がリクエストした『賑やかマクドール家』!
久しぶりに見たラキがなんだか元気が無いように見えてゲンは声をかけた。
「んー、ちょっとねー。」
いつも元気いっぱいのラキが、ボーっとした気の無い返事をかえす。
どうしたもんかと考えながら、ゲンはラキを羽交い絞めにしていった。
「シケたツラしてどうした?失恋でもしたか?」
「そんなんじゃっ、いたたたた! 痛いってゲン!」
何か悩み事があるときはあの場所へ行くといい
そう思ってゲンは抗議の声を上げるラキをそのまま引きずって船に乗り込む。
「うわわわわ」
少し乗り方が荒っぽかったのか、グラグラと揺れる船にラキは慌てた。
「くっくっく。大丈夫だって、俺に任せとけ!」
しがみつくラキを座らせて船をトラン湖の中心へと走らせる。
「どこに行くの?」
揺れが無くなった事で落ち着いたのか、ラキが興味津々と言った体で聞いてくる。
「さぁ?どこにいくんだろうなぁ?」
ニヤリと笑って船を走らせ続けるゲンにラキは不満そうに唇を尖らせた。
感情を見せ始めたラキに少し安心してゲンは言った。
「とりあえず、着くまで寝てたらどうだ?」
その言葉に小さくうなずいてラキは船底に寝転ぶ。
「うわぁ…すごい!」
上を見たまま歓声を上げる上げるラキにゲンは大きな声で笑う。
「はっはっはっはっは! でっけぇ空だろ? ここに来ると大概の事は吹っ飛んじまうからな」
一度言葉を区切ってまた続ける。
「だから、悩みがあるときはここに来い。自分の中に溜め込んじまうのは良くねぇしな」
鼻の下をこすって照れくさそうに言うゲンにラキは笑顔でかえした。
「ありがとう! また連れて来てもらうかもしれないけど…よろしくね」
やっと笑顔を見せたラキに満足そうにうなずいてゲンは言った。
「了解です!リーダー」
■琴歌がリクエストした『ゲンさん』!
いつも疑問に思っていた事を聞いてみる。
「ここなら 誰も来ないし、気がつかないし、落ち着くから」
そういいながら、膝の上に頭を乗せて幸せそうにマントを巻き込むラキに呆れて言った。
「だからって俺のマントに入らなくてもいいだろう?」
「だって寒いじゃん」
それだけ言って目を閉じてしまうラキのわがままに、ため息を吐いて、読んでいた本に目を落とす。
〝何だってこいつはここに来るんだかなぁ…″
さらさらと風が流れ、ゆっくりと時間が過ぎていく。
すーすーと寝息を立てるラキの顔を眺めていてふ、と気づく。
「そういえばこいつ、あんまりわがまま言ってねぇよな、他の奴には」
俺に対しては
「膝かしてー」だの
「マント入れてー」だの
小さいわがままを言いたい放題なのに、他の連中に言っているのを見たことが無い。
「これは…信頼されてるって事か?」
なんだか弟を持ったような暖かい感覚にふっと笑って呟く。
「こういうのもいいかもな」
「どうしてお前はいつもここにくるんだ?」
いつもの様に迷惑そうな顔をしてクライブが言う。
「ここなら 誰も来ないし、気がつかないし、落ち着くから」
言ってクライブの膝に頭を乗せてマントにくるまった。
「だからって俺のマントに入らなくてもいいだろう?」
そう、言うクライブに
「だって寒いじゃん」
わがままだと自分でもわかっていたけど、それだけ言って目を閉じる。
クライブは呆れたのかため息を一つ吐いて何も言わなかった。
パラパラと頁をめくる音とクライブの心音が聞こえて、すごく安心する。
クライブの傍はすごく居心地がいい。
兄弟がいたらこんな感じかなって思う。
グレミオとパーンも近い人だけど、どちらかというとグレミオはお母さんで、
パーンは近所のお兄さんって感覚のほうが近い。
クライブは…お兄ちゃんがいたらこんな感じだろうなって、なんだか落ち着く感じがするんだ。
頭の上では先ほどと変わらずパラパラと頁をめくる音。
膝の心地よさが眠りを誘う。
暖かな日差しの中、頁を繰る音とクライブの暖かさに包まれてまどろむ。
そんな毎日が、今の所、ラキの一番お気に入りの行動。
■音羽様に頂いた小説第2弾、東山のリクエストで『クライブと坊ちゃん』
毎日毎日、元気に走りまくってるぜ!
でも今日は、いつもと違ってロンリーブルー…
なぜかって?
「スタリオーン!今日は何か用事あるの?」
キルキスが声をかけてくる。
今日の用事だって?そんなものあるわけないじゃないか!
「俺はいつもと同じで、足を磨くためのトレーニングさ!」
ふざけていったはずなのに
「そうなんだ。わかった、がんばってね。」
いつもなら何かと言うはずのキルキスが、特に何も言わずに去ろうとする。
俺は少し慌てながらキルキスに声をかけた。
「キルキス!今日って何かなかったか?」
「う~ん…今日?」
顎に手を当てて考え込むキルキスに
「ホラ、何かあるハズだろ?」
さりげなく促そうとした俺だったが
「あー!って何も無いけど?」
と、あっさり返され敢え無く撃沈。
今日は俺の誕生日で、ちょっと寂しがり屋な俺は、誰かに「おめでとう」何て言って欲しかったりなんかして…
な・の・に!親友のキルキスにすら覚えられてないってどういうことだ?
城の連中も何も言ってくれないし…
あまりのショックにトボトボと城外へ向かって歩きながら、失意のマラソンでもしようかと思った瞬間。
「スタリオーン!」
ビクトールの声が俺を追いかけてくる。
「何だ?ビクトール」
淡い期待を抱いて振り向くと、手にはお使い籠を持ったビクトールが立っていた。
すごくいやな予感がしながらも、一応聞いてみる。
「ソレ、何だ?」
「ああ、お前に仕事だ! 魚、買って来い!」
「……」
あんまりといえば、あんまりな言葉に俺は言葉を失う。
神様俺のこと嫌いですか?今日って俺の誕生日ですよね?魚なんてトラン湖で取ればいいじゃないですかー?
心の中で叫びながらトボトボと失意のマラソンパートⅡ(お使いとも言う)をするために城を出た。
魚を求めては街から街へ、たくさんの魚をもって帰る事にした俺はいろいろな街へと足を伸ばした。
城を出たときとは違い、軽やかに走り抜ける俺は、まさに大草原を走るチーターだった。
気がつくと日は暮れて締しまって、帰るのは次の日になってしまった。
まぁいいか、誰も俺の誕生日だって覚えていてくれなかったし。
少しいじけ気味になりながらも、たくさんの魚を持って城へと走った。
そんな俺を迎えたのは…
「スタリオン! 誕生日おめでとう!」
ラキが満面の笑顔で駆け寄ってくる。
「ラキ?何で…」
俺の誕生日は確か昨日だったはず…
「キルキスから聞いたんだ、どうせだからびっくりさせようって昨日から準備してたんだよ。」
「昨日から?だって昨日が俺の誕生日だろ?」
「え?キルキスは今日だって言ってたよ?」
俺の言葉にラキは目を白黒させる。
二人してわけがわからなくなっていると、ラキの背後からキルキスが現れた。
「だから昨日あんなに何かあるか聞いていたのか?」
「だって、俺の誕生日は昨日だっただろ?」
キルキスは、呆れた様に深いため息をついていた。
「いつまでその癖直さないつもりなんだ?」
「は?クセって?」
本気でわからない俺にキルキスは言った。
「誕生日を一日早く間違えるクセ。去年もそうだったろ?」
「ぎゃはははは!スタリオン間抜けじゃん!」
腹を抱えて笑っているラキを殴って考えてみる。
「そういえば…そんな事もあった気が…」
「気が、じゃ無くて、そうだったんだよ!」
キルキスの言葉にふっと笑う。
「過ぎたことは覚えていないことにしているんだ!」
開き直りながらも、嬉しさに飛び上がって叫ぶ。
「ヒャッホーイ☆」
『うわっ、ダサっ』
ハモリながら突っ込んでくるキルキスとラキにがばっと腕を回して囁く。
「誕生日、祝ってくれてありがとう」
三人で向かった広間にたくさんのご馳走があって、たくさんの仲間が祝ってくれた最高の誕生日を俺はずーっと忘れない。
end
■音羽様に頂いた小説第3弾、ヒカリバヤのリクエストで『スタリオン』!
「つーかさぁ…なんで生きてるの?」
昼下がり、同盟軍の酒場にて俺はいきなりいちゃもんをつけられた。
「へ?」
吹っ掛けてきたのは紅い胴着に緑のバンダナ。最近リーダーのお気に入りで城を出入りするようになった過去トランの英雄と名高いネオ=マクドール。
あらかさまに俺は睨まれていた……
「なんだ?いきなり怖い形相で…」
「なんだじゃない!この城に初めて来た時、見覚えのある青がいるじゃないか!?まさかと思えばいきなり『よぅ、久しぶり』言われて、こっちは幽霊が出たんじゃないかと思ったんだぞ!!」
まるで子供のように地団駄を踏む少年はとても以前ともに戦ったものとは思えないほどに、感情をむきだしにしていた。
「あ・・・あーーそういえば三年前のグレックミンスター以来だもんなぁ」
およそ三年前、解放戦争と呼ばれた戦いのさなかでひょっこり姿を消した自分"青雷"は、いつのまにか発見されぬうちに死亡説が流れていたという。流れ者である自分は別にどの地でそんな噂が流れようともどうでもよかったわけだが、ここに来てそのしわ寄せが来るとは微塵にも思っていなかった。
「どうしてなんにも連絡をよこさんだ!こっちは葬式までやってやったんだぞ?葬式代ご香典もろもろ今すぐ払え!!」
「葬式って……」
「わざわざ青い男の像まで立ててしまったんだからな!」
「え!?嘘!!」
「嘘だよ。像が建てられたのは僕だ。」
どうやらこの三年前とうって変わったネオは俺が生きていると連絡を入れなかったのがよほど頭にきたらしい… たしかにあんなところで最後に目にしたのがコイツ自身な訳だから、死んでると思われているとは思ったが。
「あー……別にいいだろ生きてたんだから!連絡をよこさなかったのは悪かった!そんなに根に持つことか?」
今更そんな事蒸し返されても俺にとっては随分と過去のこと。そのまま死んでいると思われているほうが気楽だった。
「違う。……生きていた事自体に僕は頭にきてるんだ!死んでいてくれたほうがまだよかったわい!!」
「は?」
思いもしなかった言葉に唖然とした。
第一死んでいたならまだしも、生きていて怒られるってどういう了見なんだ?生きていたらならもっとこう…感動とか、涙とか、よかったなぁ~とか…いろいろあってもいいだろう??それが、
「おいそこの青!なんとか言ったらどうなんだ!」
「お前…三年前と性格変わってないか?もっとこう…俺達仲間って感じがしてたじゃない…か?」
「馬鹿を言うな。この僕がお前にどんなどえらい目に合わされたのか忘れたか!?受けた恨みは必ず返せというマクドール家家訓を守らず、 副リーダーなどと言う表面上だけの訳の分らぬ役柄から表向きに恨みを晴らす事も叶わず!いなくなって清々したと思いきや…再びその青の面で僕の前に姿をあらわすとは何事ぞ!!」
絶句とはまさにこの事のことだろう。過去仲間だと思っていにもかかわらず、腹のそこでこんな危険な事を考えていた奴だったとは… 三年前のこいつといったら金さん張りの正義の味方で、味方だろうが敵だろうが、バッサバッサとその笑顔と慈悲で何事もなかったように許してきたこいつが…
「今すぐトランの国民に『生きててすいません』と土下座して来い。」
さらっとこんな残酷なことを言う奴だったなんて…
ああ、蘇る美しい記憶が懐かしい。
「ちょっ、ちょっと待て!!なんで俺が全面的に悪いみたいなことになってんだ!!」
「だってそうじゃないか~。あの後お前らのために追悼碑ができたんだぞ?その中にしっかりと戦死者の欄に名前刻まれてるんだから行って謝って消して来い。」
「……消して来いって………」
むちゃくちゃなことを言う。今更帰ったら本当に謝らざるおえなくなってしまう。ましてやそんなもんが建てられていると知ったら更に帰るわけにはいかなくなってしまった。
「ん?本当に追悼碑なんて建てたのか?」
―― 要らぬものを。
「………………………」
「ネオ?」
―― 弔い。
たった今まで、当り散らしていたネオの表情が一瞬止まったように見えた。
「嘘だよ。そんなもん誰が作って喜ぶんだ。とにかく!!今までの恨み晴らさずでおくべきかーーー!!」
それが捨て台詞だったのかそのまま奴は全速力で走り去っていった。
「なんだその……悪役の退散セリフは……」
それからが悪夢の日々。
今まで一段と運が悪かったわけだがそれ以上に、風船で何度も空中高く飛んでいってしまったり、やけに敵の攻撃が自分にあたると思ったらホタルの紋章がいつのまにかつけられていたり、部屋がむささびの巣窟にされていたり、あわよくば城内だというのに何処からともなく俺にだけ矢が飛ばされてきたりと……
「一体お前は何がしたいんだ……」
やっとその原因とも思えるネオを捕まえたのはそれから幾日後、追い掛け回してやっとの事で捕まえた。
奴はなんの悪びもせずにさらりと。
「生きるのが嫌になって僕に黄泉へ送ってくれと懇願するのをずっと待ってるのさ。」
そろそろいい感じ?と、 まるでさぞ当たり前かのようにに奴は言いはなった。
「お前、そんなに俺が恨めしいのか……」
いくら恨んでいるといってもこの仕打ちは度を過ぎている気がする、確かに三年前の俺の態度は……若かったけど!だからといってここまでするこたぁないと思う。うん。絶対こいつはからかいとか面白いとかそういう概念で、
「恨んでるさ…」
その時、奴は笑ったんだ。
意味ありげと、ぞっとするような優しい笑みで。
「……お前」
その瞬間なにかが不安になったんだ。この三年間本当にこいつは俺のこと心配していたんじゃないかと…
そんな奴顔一度も見たことがなくて、俺はまんまと一歩前に出てしまったんだ。
ズゴン!
何故床に穴なんてあるんだ?
「ギャハハハハハハ!!!」
「お前…か……」
こんな落とし穴を…しかも屋内の床だというのにこしらえたのは!!
「いやー…一瞬笑いが堪えられなかったけど、さすが天然の大不幸男!自分からはまったね!!」
奴は蔓延の笑みを浮かべて城に響き渡るほどの声で笑っていた。よほど満足したらしい……
「あ~面白かった!今日はこのへんかな?」
じゃあな。と言い放ち、またよろしくとばかりに奴は笑いながら俺をその場に落としたまま去っていた……
俺は一体いつまでこいつに恨みを返されつづけるのか……
■和久が頂いた2000HITキリ番小説「坊ちゃんとフリック」
↓ さらに、おまけの別サイドからの小説 ↓
誰一人まともに弔うことができなかったんだ・・・
そう…誰一人…
綺麗に戦場で散っていった勇敢な戦士として…
最後までリーダーを命がけで守った名誉ある戦士として…
最後まで戦いに身を投じた者として…
死んでしまってそんな名誉をもらっても当の本人はもう知るすべさえ持ってないのに…
あんなかっこだけの弔い方なんて・・・
石碑が建てられたらしい。下には誰も埋まっていない。
その静かな石を見て故人を思い出せるようにと。
その戦いが思い出せるようにと…忘れないために。
そんなものになんの意味があるのかと、なぜ僕はここにいるのかと
まともに見ることなんてできやしなかった。最後にその人を見て置いて行ったのは自分自身なのに。
なぜ生きていたのか?どうして何も知らせてはくれなかったのか? そんなことよりも……
その色を見て、本当に目を疑ったんだ。
この手からこぼれ落ちてしまったもの、沢山あった。
その中の一つ、取りこぼしてしまった筈なのに…
「本当に死んだと疑わなかったんだからな!」
「生きてて悪かったな……」
「もういい…今すぐお前を冥界へ送ってやる。」
一瞬でもお前を心配した自分に腹が立つ。
「お前がだ」
「え?」
ロッシュは顔を上げた。
「武運が必要なのはまずお前だ。まずここが戦火に晒されるだろう」
帝都を落とすにあたって、クワバを残すとは思えない。背後を攻められぬよう、
反乱軍が何かしら牽制をかけてくるのは容易に想定できる。
そうでなくとも、勢い余った民が押し寄せてくる可能性もある。
「――ロッシュ、不利と判断したら直ちに投降せよ」
「アイン様?」
「投降は決して敗北ではない。解放軍と名乗る彼らのことだ、降伏した者を無闇に殺したりはすまい。
……負けると知り尚挑むのは愚者のやることだ」
反乱軍、ではなく解放軍と呼んだ事にロッシュは驚いた。
だがそれ以上に、アインのその言葉はまるで。
「では、あなたは」
口からするりと抜けてしまった言葉に、ロッシュは慌てて首を振って頭を下げた。
アインを愚者だと言いたい訳ではない。そのようなつもりは断じてない。
けれども今帝都へ赴けばその先は知れている。
「失礼しました、今のは――」
下げた肩に、手がやさしく置かれた。
縋るようにゆっくり仰いだ上司の顔は、晴れ晴れとしたものだった。
「これは私のわがままだ」
アインは頷いた。ロッシュの肩からその手を離す。
「ロッシュ。お前だからこそ、その判断ができると信じている」
肩にはその重さが、暖かさがまだ残っている。――それが悔しい。
あなたも、などとは断じて言えない。言ったところで、受け入れてくれなどしないだろう。
武器と防具以外で護れるものがあるとしたら、ただひとつ。
ロッシュは無言で敬礼をし、頭を下げた。アインが軍靴の音が遠のくまでは頭を上げることができなかった。
■東山が勢いで描いたクワバ漫画に反応して、実柑さんが書いてくださったクワバ小話。

